迷走神経とは?呼吸・自律神経・ストレスとの関係を論文ベースで解説

米国脳神経科学研究者アキ先生の

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迷走神経とは?呼吸・自律神経・ストレスとの関係を論文ベースで解説

迷走神経とは?呼吸・自律神経・ストレスとの関係を論文ベースで解説

ストレスを感じると胸が締めつけられる。緊張するとお腹が痛くなる。
温泉に入ると、体がふっとゆるむ。こうした反応には、脳と内臓をつなぐ「迷走神経」が深く関わっています。
迷走神経は、心臓、肺、胃腸、免疫系にまで影響を及ぼし、心拍や消化、炎症反応の調整にも関係する神経です。近年の研究では、呼吸法や顔を冷やす刺激によって、この迷走神経の働きにアプローチできる可能性が示されています。
特別な道具や薬を使わなくても、呼吸を整えることで、体と心の反応を穏やかに変えていく。迷走神経は、自分の体を内側から整えるための重要な入口なのです。

迷走神経とは? 脳・心臓・肺・腸をつなぐ“もうひとつの司令塔”

迷走神経は、脳と体をつなぐ重要な神経です。心臓、肺、胃腸などに広く枝を伸ばし、体の状態を脳に伝えたり、脳からの指令を内臓へ届けたりしています。ここではまず、迷走神経とは何か、なぜストレスやお腹の不調、リラックス反応と関係するのかを見ていきます。

脳と腸をつなぐ双方向の情報ハイウェイ

ストレスを感じたとき、胸のあたりがきゅっと締まる感覚がありませんか。
 あるいは、緊張するとお腹が痛くなる。
 逆に、温泉にゆっくり浸かった瞬間、体全体がふわっとゆるむ。
これらはすべて、ひとつの神経が関わっています。
 それが、迷走神経です。
迷走神経は脳幹から出発して、心臓、肺、胃、腸まで枝を伸ばす、人体で最も長い脳神経です。名前の由来は「さまよう神経(vagus = wandering)」で、体中をさまよいながら臓器同士の会話を仲介しているのがこの神経です。
2018年にBreitらがFrontiers in Psychiatryに発表したレビューでは、この神経が脳と腸をつなぐ双方向の情報ハイウェイとして機能していることが詳しく整理されました[1]
腸の状態が気分に影響し、脳の状態が消化に影響する。
 その橋渡し役が迷走神経です。

迷走神経は免疫や炎症にも関わっている

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迷走神経の働きは、心拍や消化の調整だけではありません。
近年の研究では、免疫反応や炎症のコントロールにも関係することが示されています。

つまり、迷走神経は「リラックスに関わる神経」というだけでなく、体内の過剰な炎症反応を調整する仕組みにも関わっているのです。

神経が免疫細胞に働きかける仕組み

興味深いのは、この神経が免疫にまで手を伸ばしていることです。
2002年、神経免疫学者のKevin Traceyは、迷走神経が炎症を直接コントロールする経路を発見し、Natureに報告しました[2]

「コリン作動性抗炎症経路」と名付けられたこのメカニズムでは、迷走神経の信号がアセチルコリンを放出し、マクロファージのTNF-α産生を抑えるとされています。
つまり、神経が免疫細胞に「落ち着け」と命令を出せる。
これは医学の常識を書き換えた発見でした。
話が実験室の中だけで終わらないのが、この研究の重要なところです。

oopmanらが2016年にPNASで報告した臨床試験では、関節リウマチの患者に迷走神経刺激デバイスを埋め込んだところ、TNFの産生が有意に抑制され、84日間にわたって疾患活動性スコアが改善し続けたそうです[3]
薬ではなく、神経への電気信号で炎症が引いていく。これは非常に大きな意味を持つ結果です。

呼吸で迷走神経は整うのか

迷走神経に医療機器で刺激を与える研究が進む一方で、日常生活の中で迷走神経に働きかける方法として注目されているのが呼吸です。特に、ゆっくりとした呼吸や吐く息を長くする呼吸は、自律神経のバランスに影響すると考えられています。ここでは、呼吸と迷走神経の関係を見ていきます。

吐く息を長くする呼吸と迷走神経

では、デバイスを埋め込まなくても迷走神経を活性化する方法はあるのでしょうか。
そのひとつが、呼吸です。
GerritsenとBandが2018年にFrontiers in Human Neuroscienceで提唱した「呼吸性迷走神経刺激(rVNS)」モデルによると、ゆっくりした呼吸、特に吐く息を長くする呼吸は、迷走神経の求心性線維を持続的に刺激することが期待されています[4]
瞑想やヨガで副交感神経が活性化するのは、「心が落ち着くから」だけではありません。
呼吸パターンが迷走神経を物理的に刺激している可能性がある。
つまり、順序が逆なのです。

呼吸法はなぜストレスや気分に影響するのか

呼吸法がストレスや気分に影響するという話は、感覚的なリラクゼーションとして語られがちです。しかし近年は、呼吸のリズムや吐く息の長さが、心拍数や呼吸数といった生理反応に変化を与える可能性が研究されています。ここでは、呼吸法の効果を検証した研究をもとに見ていきます。

1日5分の呼吸法が心身に与えた変化

スタンフォード大学のBalbanらが2023年にCell Reports Medicineに発表した無作為化比較試験は、この点を鮮やかに裏付けました[5]
114名の被験者を4グループに分け、毎日5分間の呼吸法またはマインドフルネス瞑想を1ヶ月続けた研究です。
この研究では、意図的にため息をつき、吐く息を長くする呼吸法である「生理学的ため息」が、気分の改善と呼吸数・心拍数の低下で全条件を上回りました。
たった5分の呼吸法です。しかも、この生理学的ため息は、瞑想より効果があることが示されました。

顔を冷やすことでも迷走神経は動く

迷走神経へのアプローチは、呼吸だけではありません。顔を冷やすというシンプルな刺激でも、自律神経の反応が変化する可能性があります。これは「ダイビング反射」と呼ばれる体に備わった反応と関係しています。ここでは、冷刺激と迷走神経、ストレス反応の関係を紹介します。

顔への冷刺激とダイビング反射

スタンフォード大学のBalbanらが2023年にCell Reports Medicineに発表した無作為化比較試験は、この点を鮮やかに裏付けました[6]
114名の被験者を4グループに分け、毎日5分間の呼吸法またはマインドフルネス瞑想を1ヶ月続けた研究です。
この研究では、意図的にため息をつき、吐く息を長くする呼吸法である「生理学的ため息」が、気分の改善と呼吸数・心拍数の低下で全条件を上回りました。
たった5分の呼吸法です。
 しかも、この生理学的ため息は、瞑想より効果があることが示されました。

呼吸で動かせる“もうひとつの脳”としての迷走神経

迷走神経は、脳と体をつなぐ一方通行の神経ではありません。体の各所から情報を集め、心拍、消化、炎症反応などに関わりながら、体全体の状態を調整しています。呼吸は、その迷走神経に自分で働きかけられる数少ない方法のひとつです。最後に、日常でできる呼吸法を紹介します。

今日からできる呼吸法

迷走神経は、脳からの一方的な命令系統ではありません。
体の各所から情報を集め、炎症を抑え、心拍を落ち着かせ、消化を助ける。
 呼吸はその迷走神経を、薬もデバイスもなしに動かせる数少ない手段のひとつです。
呼吸で動かせるもう一つの脳。
 それが、迷走神経です。
今日、試すならこれです。
鼻から4秒吸い、6秒かけて鼻から吐く。
 これを5分続ける。
それだけで、あなたの「もうひとつの脳」が動き出します。
Be nice to yourself and be nice to your brain!

米国脳神経科学研究者 臨床心理士・公認心理師 アキ先生, PhD

参考文献

[1] Breit S, Kupferberg A, Rogler G, Hasler G. Vagus Nerve as Modulator of the Brain–Gut Axis in Psychiatric and Inflammatory Disorders. Frontiers in Psychiatry. 2018;9:44. doi:10.3389/fpsyt.2018.00044

[2] Tracey KJ. The inflammatory reflex. Nature. 2002;420(6917):853-859. doi:10.1038/nature01321

[3] Koopman FA, Chavan SS, Miljko S, et al. Vagus nerve stimulation inhibits cytokine production and attenuates disease severity in rheumatoid arthritis. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2016;113(29):8284-8289. doi:10.1073/pnas.1605635113

[4] Gerritsen RJS, Band GPH. Breath of Life: The Respiratory Vagal Stimulation Model of Contemplative Activity. Frontiers in Human Neuroscience. 2018;12:397. doi:10.3389/fnhum.2018.00397

[5] Balban MY, Neri E, Kogon MM, et al. Brief structured respiration practices enhance mood and reduce physiological arousal. Cell Reports Medicine. 2023;4(1):100895. doi:10.1016/j.xcrm.2022.100895

[6] Richer R, Zenkner J, Küderle A, et al. Vagus activation by Cold Face Test reduces acute psychosocial stress responses. Scientific Reports. 2022;12:19270. doi:10.1038/s41598-022-23222-9

迷走神経と呼吸についてのよくある質問

迷走神経を整えると、自律神経の不調は改善しますか?

迷走神経は副交感神経の主要な神経のひとつで、心拍、呼吸、消化などの調整に関わっています。そのため、呼吸法などで迷走神経に働きかけることは、自律神経のバランスを整える助けになる可能性があります。
ただし、自律神経の不調には睡眠不足、過労、心理的ストレス、生活習慣、病気など、さまざまな要因が関係します。迷走神経だけを整えればすべてが改善する、というものではありません。

呼吸法だけでストレスや不安は治りますか?

呼吸法は、ストレス反応を落ち着かせるセルフケアのひとつです。特に、吐く息を長くする呼吸は、心拍や呼吸数を落ち着かせ、体をリラックスしやすい状態へ導く可能性があります。
ただし、強い不安、パニック症状、長く続く不眠、日常生活に支障が出るほどのストレスがある場合は、呼吸法だけで解決しようとしないことが大切です。必要に応じて、医療機関や専門家に相談してください。

呼吸法で炎症や病気を治すことはできますか?

迷走神経が炎症反応に関係することは研究で示されています。しかし、呼吸法だけで炎症性疾患や病気が治るという意味ではありません。
関節リウマチなどの研究で使われている迷走神経刺激は、医療機器を用いた専門的な治療です。日常で行う呼吸法は、あくまで心身の緊張をゆるめるための補助的なセルフケアとして考えるのが適切です。治療中の病気がある場合は、自己判断で治療を中断しないでください。

顔を冷やす方法は、誰でも安全にできますか?

冷たいタオルやジェルパックを短時間顔に当てる程度であれば、日常的に取り入れやすい方法です。ただし、心臓疾患、不整脈、血圧の問題がある方、失神しやすい方、体調が悪い方は注意が必要です。 冷水に長時間顔をつける、息を止める、極端に冷たい刺激を与えるなど、体に負担をかける方法は避けてください。不安がある場合は、事前に医師に相談することをおすすめします。

迷走神経を刺激する呼吸法に副作用はありますか?

ゆっくりした呼吸法は多くの人にとって取り入れやすい方法ですが、無理に深く吸いすぎたり、長く息を止めたりすると、めまい、息苦しさ、不快感が出ることがあります。 呼吸法は「たくさんやればよい」ものではありません。まずは1日5分程度から始め、苦しさや違和感がある場合はすぐに中止してください。体調に不安がある方、呼吸器や心臓の疾患がある方は、無理をせず専門家に相談してください。

あなたに必要なテーマから、呼吸科学を始めてみませんか。

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